Special_feature特 集

クリエーターズインタビュー

粘土は造形を誘発する装置という側面があるかも知れない。

パジコ:宇野さんは昔からパジコの粘土を使って、立体造形をなさってこられましたが、平面と三次元の表現面での違いをどう感じますか?

基本的には同じかな。でも、平面はデッサン上、正確でない線を敢えて置くと面白い偶然の発見がありますが、彫刻になるとそれはできない。立体はリアリズムが要求されます。ふと夜中に目を覚まして作りかけの作品を見たりすると、どんどん気になって肉を足したり削ったり、時間がかかっちゃうんですよね。それに彫像は造形のリアリズムを追求すれば正確な表現になるかというとそうじゃない。以前、映画をテーマにした展覧会で頭部を抽象的にカットしたブリジット・バルドーを作ったんですが、どこかバルドーでない。人間のイメージとは、色と光と影に影響されているもので、メイクアップがその人やその時代や美学を表現している。メイクアップなしでは普遍的にいる女性や少年のようになってしまう現象に気がつくんですよね。だから彫像は難しい。

パジコ:粘土を使う楽しさ、手を使う楽しさとは

粘土は好きです。いつもパジコの製品が何個かないとイライラします。

パジコ:手前味噌ですいませんが、お気に入りの粘土はどれですか?

ここにもちょうどプルミエがあるんですが、僕はこれが好き。イラストレーターの野村直子さんと一緒に、舞台美術をやるときはハーティソフトもよく使います。野村さんが僕と出合った時は、ラドールを使ってましたね。いまは、ハーティソフトである程度の造形をやっておいて、表面をプルミエで作りこんでいく。プルミエは早く乾燥して、中のハーティはやわらかいままなんで、ほじるとハーティソフトがペロンとはがれて軽くなるから、被り物や軽さがいる作品のときはこの手法を使います。他に軽さが要求される大型作品はスチロールにハーティをつけてマチエールをつけてから塗色したり。あ、このブリキのおもちゃもプルミエです。

宇野さんの彫塑作品の数々。
物語性のあるドラマティックな造形が並ぶ。

お好きなのはハーティソフト。
いつも買い置きがあるとか。

パジコ:この謎のベートーベンなどはどういう文脈でできたんですか(笑)

粘土を触ってて、おもしろいかなーって思って。 ウサギのブリキのパンツに合わせてペイントしてみたんです(笑)大中で買った中国製のブリキの玩具をプルミエでリニューアルするんですよ。ブリキにくっついちゃうんですからすごいんですよ、この粘土は。

ブリキのウサギにプルミエをくっつけて造形。ネジを回すとちゃんと太鼓を叩いてくれます。

パジコ:さて、先日これまでの仕事を一挙にまとめた「宇野亜喜良展」が開催されましたが、今後の展望は。

僕は依頼あって「これは本番の仕事になるな」っていうときしか考えないんですよね。「来たら考えよう」みたいな。いまも新聞の連載小説の挿絵や歌の映像を作る仕事をしていますが、もっといろんな方面といろんな仕事がしてみたい。作っていくことも、現場も大好きだから、舞台の背景も全部自分で描くし。そんなこというとまた、「あれをやれ、これをやれ」と言われるから困るし、強制されるのは苦手なんですが、アーティスティックな遊びだとやれる。楽しいんでしょうね。

パジコ:これから造形を志す人たちへ。

いつだったか画家の部屋の写真に、何枚もの白いキャンバスがあって、一枚一枚描くんじゃなくて、同時に手をつけている場面があったんですね。白い何枚ものキャンバスにどんなフィルムを映していこうかという感じで。
粘土を触っているときそれに近い感じがします。ミケランジェロは、「すでに大理石の中に像はある」と言うし、うまい彫刻は石の中にすでに彫刻が存在する感覚がある。粘土はそれに似ていて、生理と感覚が一緒になってそれが姿を現す瞬間を持っている気がするんですね。手を動かしながら、なにかが意識の中で形になっていく面白さは粘土でないとありえない。粘土には「粘土が誘発する造形」がある。だから、つける場所がなくても、粘土をよく触っているんです。なにかを進めると発展的にイメージを誘発することになるんだけど、最初にとりあえず粘土を持ってみるっていうのもありかもしれない。

舞台の小道具の王冠も宇野さんの手によるもの。 ありえないサービスショット!

フィギュア、人形、資料がカオスとなった風景はたぶんパジコの取材がはじめての掲載かもしれません。

PROFILE

宇野亜喜良

イラストレーター
1934年名古屋生まれ。少年時代、春陽会の画家・宮脇晴に師事。名古屋市立工芸高校図案科2年生で新聞に作品が掲載され、19才で日宣美に入選。1955年上京後カルピス食品工業宣伝部入社。この年、日宣美展特選。東京会員となる。1960年、日本デザインセンター設立とともに入社。1964年に横尾忠則、原田維夫 とともにスタジオ・イルフイルを設立するも1年で離脱。和田誠、横尾忠則ほか数名と東京イラストレーターズクラブを設立。主な受賞に1956年日宣美展特選、1960年日宣美会員賞、1966年東京イラストレーターズクラブ賞、1982年講談社出版文化賞挿絵賞、1989年サンリオ美術賞、1992年第6回赤い鳥挿絵賞等。1999年紫綬褒章受章。2010年旭日小綬章受章。主な著作に「海の小娘」(1962年・朝日出版社/文・梶祐輔、共著・横尾忠則)、絵本「あのこ」(1966年・理論社/文・今江祥智)、「宇野亜喜良の世界」(1974年・立風書房)、「宇野亜喜良マスカレード」(1974年・美術出版社)、絵本「さくらんぼ」(2010年・フェリシモ出版)、句集「大運河」(1993年・トムズボックス)、句画エッセイ集「奥の横道」(2009年・幻戯書房)など。

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