今月のパジコ人 ヨシオミドリさん

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仕事も趣味も息抜きも粘土!
一途に大好きな「作る」ということ。

今月のパジコ人

ヨシオミドリさん

買いたい客と
売らない作家

デザイナーから立体作家になったことで気づくことって何かありますか?

ヨシオミドリさん(以下、ヨ): そうですね。所謂立体作家さんって作った作品を売るのが仕事ですよね?でも私は自分が作ったものを手放すのが嫌で。自分が作った私物を見せびらかす個展を何年もやっていました(笑)。何も買えない変わりに写真は取り放題で(笑)

それは作家として新しい感じですね

ヨ: でも毎年来てくださるお客さんが、だんだんイライラしだして。こんなにたくさんあるのに!なんか1つくらい買わせてよって(笑)。個展はあくまでプロモーションのためで、作品を販売することを全く考えてなかったんです。

たしかに、デザイナーやイラストレーターとかとは違いますね。

ヨ: そうなんです。データとして販売して本とか雑誌になって人の手に渡るのが仕事だと思ってたので。で、肩書きも迷ってた時期もありました。

今、肩書きってどうしてるんですか...?

ヨ: 立体イラストレーターっていうと分かりやすいかなって。イラストレーターの仕事を立体でやってる人ですよという。

今は個展で少し販売してますよね?

ヨ: 最初は作品とお別れするのが嫌だったんですが、いっぱい作っても展示のときしか出てこない子たちがなんか可哀想になってきて。お客さんが大事にしてくださるならいいかなって一回吹っ切れて、最近は少しですが販売するようになりました。

作品への愛が他の作家さん比べても、特にあふれてますね。作品が本当にご自分の子どもみたいに。

ヨ: ほんとですか!?でもそんな感じですね。我が子を嫁に出すって感じです。

1番辛い瞬間は
ハーティの袋を破るとき

小鳥のガチャガチャがまた11月に出るそうですね。

ヨ: 夢だったんです!私の作品ってやっぱり猫のイメージが強くて。でも粘土触り始めたきっかけは文鳥!なのに鳥を作ると結構驚かれます。去年の12月にことりサミットっていう東京の小鳥の催事に初めて出たんです。私を知ってくださってる方も鳥を作ってるのは知らなかったみたいで。「鳥もいけるの?!」って。

たしかに、猫のイメージが強いですよね。今回のガチャガチャもこだわりがあるんですよね。

ヨ: これは原型も塗り見本も100%私がやってます。前回のネコカブルと違う点は、ソフビで中にライトを仕込んでいます。

作家活動を初めて2020年で12年、原点(文鳥)に戻りましたね。

ヨ: そうそうそう。やっと原点に戻りました。

その原点を捨てずにずっといられてるのがすごいですね。粘土と文鳥と。

ヨ: 飽きないんですよ、全然!デザインの学校時代に先生から好きなことを仕事にしようとするといずれ嫌いになることがあるかもって言われてたので、私もいつか粘土やりたくないって時期が来るのかなって思ったら全然来なくて(笑)。

今までキツイとか苦しいってありました?

ヨ: 1番キツイのはハーティの袋を破るときですかね。気が重いですね、開けたらやらなきゃいけないっていうテンション低い状態なので。粘土に触るとウワーって上がっていくけど。

スランプとかに陥ったりしたことは?

ヨ: あります、あります。どうしていいかわからないとき。でも基本的にどんだけ気持ちが乗らなくても体調悪くても自分の中の合格点は出すと決めてるので、作り終わった時点でそこに満たないものは世の中に出てないし、見せてないです。

困ったとき周囲に相談したりしないですか?

ヨ: 自分で解決します。いちいち聞いてたらスタートが遅れるっ思ったんです。もう直感で動くしかないって。だからできあがってないのにやっちゃう。プラットホームないのにいきなり電車走るみたいな。個展とか完全にそうでした。なんか知らんけど個展やらなきゃみたいな。

作品がつなぐ縁

ヨシオさんは初期に何回か個展やってるんですよね?

ヨ: 本当に人の縁があって、下関にある隠れ家みたいな古民家カフェで個展したときも、オーナーさんに気に入っていただけて、会ってすぐやることが決まって。個展中カフェを手伝ってたら、カフェに来てたデザイン会社の社長に「君ここまでできるんだったら東京に営業行った方がいいよ!」って言われて。それが東京に営業に行くきっかけでした。

すごい、やっぱり運命的な出会いがありますよね。

ヨ: 要所要所に誰かいるんですよね。猫の雑誌に連載を持たせてもらうことになったのも、アポを取った方がおられなくて、代わりに話を聞いてくれた方が鳥好きで鳥の話ですごく盛り上がって。猫雑誌の編集部なのに(笑)。それですぐ猫の作り方の連載の仕事が決まったんです。前回出た小鳥の本も、その方が別の部署に移って「ヨシオさんと鳥の本がやりたかった」と言ってくださってできたんです。

濃厚すぎますね!じゃあガチャガチャに発展したのは?

ヨ: それもまた相当不思議な話で。個展に来てくれる人が毎年増えて、私もすべての人と話をできない時があるので、ボードに「こういう仕事をしていて、こういう仕事がしたいです!」って書いて貼ってたんです。そこに「夢はガチャガチャです」って小さく書いてたんです。その個展で、ある方から「知り合いがガチャガチャの会社の人だから連絡しとくねー」って言われて、その翌日に、ガチャガチャの会社の社長が来てくれたんです!
 その次の展示の時に、ちょっと前に大興奮して作った熊が猫のかぶり物をかぶった「熊猫」って作品を、展示予定じゃなかったのに持ち込んでて、スペースもあるし久しぶりに飾ったら、見に来てくれたガチャガチャ会社の方が「ヨシオさんこれなんですか?」て。私の中では熊猫のブームは一段落してたので「ああこれすか?」ってパカッて、猫の頭をすごい雑に外して熊にしたら、「うわっ!?」ってなって、「ヨシオさんこれですよ!これでガチャやりましょう!!」って。それが「ネコカブル」に。

いやすごい...。それもまた作品がつないだ運ですね。ヨシオさんが作品を愛しすぎてて、熊猫が自分でカバンに入ってきたんじゃないですかね?

ヨ: そうかも(笑)。たしかに。偶然というかこれまでの何か1個でもかけたらどうにもなってないことばっかりなんですよね。

もちろん作品が素晴らしいからなんですけど、それでも運は強いですね!

ネコカブルシリーズ

ポーズが勝手にできていく!
想像のつかない作品づくり。

作品を作っていて特に楽しいところってありますか?

ヨ: 形ができていく様ですかね。下描きをしないので、頭の中のものを作っていくだけではあるんですけど、猫とか人とかを作るときって勝手にポーズができていくんですよ。だからどうなっていくのか自分で想像がつかないので、そこが一番もう楽しいですね!

天才型ですね。キャラクターが勝手に走っていく、みたいな。

ヨ: 分析してしっかりつくると、「どうだー!」っていう作品になっちゃうんですよ。いつも最初は行儀良く作っていくんですけど、だんだんテンション上がって面白い顔とか表情になっていくんですよね。それでみんなが欲しがるのはそっちっていう。

テンションが上がった時の作品の方が良い表情ってことですね!

ヨ: そうなんです。下絵を描いたりして絵の通りにならなかったらストレスになっちゃうんですよ。だったら描かないほうがいいじゃんって。作りながら考えるというか、心地よい方向、面白い方向、自分がより楽しい方向に向かっていくんですよね。だから毎回、「私の楽しいはみんなの楽しいとちゃんと合ってるだろうか」ってドキドキするんです。毎回個展の初日とか、作品展の初日とか相当ドキドキしますね。世の中とのズレはないかな?って。

たとえば桃太郎みたいな挿絵のお仕事のときって、下描き要求されませんか?

ヨ: 桃太郎の時は「ラフを描くのが苦手です」って言ったら「なくていいですよ」って。いいの!?やったー!と思いました。(笑)一寸法師の挿絵のときは、キャラクターがどこにいてどうなってるのかだけでもわかるような下描きが欲しい棒人間でもいいので。と言われたので、脳内にあった30%ほどを描いて出したら、この人で大丈夫?ってなってたって後で聞きました。
 仮組みして色塗る前に見せたら「表紙になる可能性があります」って言われて。仮組み見て、安心されたんでしょう。いまだにその方にこのこと言われます(笑)
 でも、立体を平面に落とすことって作業的に難しいでしょう?世の中のすべては立体なのに、なんでわざわざ一旦平面にしなきゃならないのって。そっちの方が難易度高い。

言われてみればそうですね。

ヨ: すごいと思うんですよ、平面描いてる人。立体を立体にする方が楽ですよ!

ラフ→仮組み→完成

いつもある
作りたいものたち

では最後に、あなたにとってものづくりとは?

ヨ: 妄想の具現化!もともと作りたいものがあって、これが欲しい!から始まってるので。

立体作家になってからも、それは変わらないですか?

ヨ: そうですね、欲しいもの、作りたいものがずっとありますね。そして作るたびにもっとかわいくできたのにとか、作ってる途中に別の作品を作りたくなるとかどんどん発生してきます。個展では、作品点数が多いし毎回間に合っててすごいよねって言われるんですが、実はいつも間に合ってないんですよ。なんか単純にタイムアップが来たから終わってるだけで。

え、毎回、間に合ってないんですか?

ヨ: 個展って誰からも頼まれてないので、自分が好き勝手にできるからずーと好きにやっちゃう。ひたすら好きなことをやってるので、どんどんどんどんあれもこれもといつも時間が足りない。いつも終わってないんですよ。いつもあと2週間あればって思ってます。

作品づくりが本当に好きなんですね。

ヨ: こんなにも好きかって自分でも思いますね。とにかく楽しいんです。今は仕事も趣味もこれかな。息抜きも粘土ですね(笑)。

ヨシオミドリ

福岡県北九州市出身。
デザイン事務所勤務を経て、軽量粘土を使った立体イラストレーターに。カラフルで元気な作品で、企業からの制作依頼、雑誌や児童書、絵本の挿絵、教材の表紙用作品や、パンフレットなどなど精力的に活動中。2015年には、北九州から東京に引っ越し、年間3-4回の粘土の展示を東京大阪等各地で開催。著書に「粘土でつくるまんまるかわいい小鳥」(日東書院)、「軽量ねんどでつくるかわいいペンギン」(誠文堂新光社)などがある。カプセルトイ「ネコカブル®」(シャイング)シリーズが大好評。2020年11月カプセルトイ第三弾「まんまるかわいい小鳥ライト」(シャイング)を展開。
https://chinashi.biz

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