Special_feature特 集

クリエーターズインタビュー

ホイップ&スイーツから生まれるアートを召し上がれ。
アーティスト:渡辺おさむ

「スイーツアートの貴公子」の異名を持つ渡辺おさむさん。彼のクリームを使った表現は、東京造形大学の学生だった10年前から展開されてきたもの。近年ではアニメやインテリア企業とクリームのコラボレーションなど活躍の幅を広げ、5月にはホビーショーのゲストとして出演予定。そんな渡辺さんにスイーツアートの魅力とパワーの理由をうかがいに、アトリエにお邪魔しました。

クリームやスイーツにまつわる幸せな記憶が誰にもある

パジコ:そもそも、スイーツでアート表現をしてみようと思ったきっかけは?

僕の母はお菓子の先生で、小さい頃からお菓子に囲まれて育ってきたから、自分なりの表現を考えたときお菓子を使うのがいいかな、と。クリームは自然に親しんできたモチーフでした。

パジコ:スイーツを使ったアートは10年前なら非常に珍しかったと思うんですが。

先生の反応や評価はよくなかったですね(笑)。僕はデザイン科だったので、「関係ないだろ」と。でも、展覧会で発表するとみんな楽しんでくれる。美術界の評価は賛否両論でも芸術には批評があって当然で、特にスイーツは新しいというか、他になかった表現だから。けれど、ふざけてやってるだけならそもそも、10年も続かない(笑)。続けていれば、わかってもらえるかなと思ってます。 逆に海外では食品サンプルって日本独特のものだから、それ自体がユニークな文化として受け入れられました。さらにそれで表現するという違和感がアートジャンルで非常に新鮮なものだったようです。「え?偽者の食品?クリームでアート?」っていう二段落ちで(笑)。

パジコ:クリームやスイーツが人をひきつけるパワーとは?

クリームやスイーツにまつわる幸せな記憶が誰にもあるんじゃないかな。だから、興味を持ってもらえる。そこから作品に込められたメッセージに入ってもらえばいい。スイーツを通すといろんなコンセプトが表現できるし、伝わりやすい。深刻で破壊的だったり、抽象的な難しい表現より、クリームが持つ親しみやすさをフックに、現代アートが好きな人、理解する人が増えたらいい。

ブニブニと世界に増殖するクリームの幸せ。

パジコ:男性におけるスイーツ、その反応とは。

興味を持っていただけるのは、やはり女の人が多いですね。どんな年代でも、クリームを見ると顔がほころぶのが見ていてわかる(笑)。男性の場合は格好悪いというのもあるんでしょうが、雑貨系のかわいさには反応しない。アートとしてだと、受け入れる感じがある。でも、ワークショップをやると男性もけっこう参加しますね。スイーツが嫌いな人って、そんなにいないですから。モノづくりとなると、男性は、こだわりが強くて凝って作る分、作品に密度があったりします。

パジコ:ワークショップで使っていただくパジコの素材の使い心地はいかがでしょうか。

パジコのハーティはキメが細かいので、なめらかなマカロンやクッキーのモチーフに向いていますね。いまは、こうして作品の素材も多くなったけれど、10年前はスイーツデコを誰もやってない、本もない、当然、教えてもくれなかったので、独学で試行錯誤しながらやってました。いまも果物も本物のフルーツをシリコンで型取りして、蝋を仕込んでつくってます。ゼリーはレジン。 パジコのシリコーンホイップ素材は小さい子でもきれいな形ができて、10分ほどすると硬化がはじまるから、ワークショップに向いてますね。パジコに今後作って欲しいのは、収縮率0%の素材かな。シリコンも粘土も、作りたてのあの感じが保てる素材が欲しいな。作ってください(笑)。

パジコ:これからのスイーツアートではどんな挑戦を?

いま、世界遺産をデコレーションするプロジェクトに取り組んでいて、万里の長城や金閣寺とか、いろんなところにデコレーションしています。現地に乾いたクリームを置いて撮影するんですが、景色の中にクリームを置くだけで、空気がガラッと変わる。この間もモンゴルでゴビ砂漠をデコしました。

パジコ:世界遺産がかわいくなる現象が起きてますね。

僕のイメージではクリームって増殖していくもの、搾り出され、ブニブニ増えていく感じがしていて、そのイメージで椅子やテーブル、世界遺産に広がっていくという世界を作っているので、いろんな分野でいろんなものにデコレーションしたい。世界にクリームの幸せが広がって満ちていく感じ。メディアに出たり、アニメとコラボレーションするのは美術界からすれば賛否両論あるけれど、それも僕の作品がいろんなジャンルと結びついて増殖していくプロジェクトなので。広告やインテリアにももっと作品を提供して、増殖していきたいですね。

パジコ:ホビーショーにご来場の皆様へ一言おねがいします。

ワークショップに参加される方は、素材に触れる楽しさを知ってほしいし、作品を見る方にも、こういうアートもありなんだって、現代アートに興味を持ってもらえたらと思います。

パジコ:本日はありがとうございました。

PROFILE

渡辺おさむ(わたなべおさむ)

1980年山口出身。東京造形大学デザイン科に在籍中からw食品サンプル技術を用いた「Fake cream art」を国内外で展開。2007年、長野県信濃美術館「五感でアート展」で美術館デビュー。同年MOCA(上海現代美術館)「ECO×DESIGN展」にて、海外美術館でのデビューを果たす。2008年の北京での個展を皮切りに、上海、ミラノ、ベルギーと立て続けに作品を発表。2009年7月、越後妻有ビエンナーレ選出。同年12月MOCAアニマックスビエンナーレに選出され、アジアを始めとした海外での注目度が急上昇している。 出演番組:東京カワイイTV(NHK) Tokyoブレイクする~(BS11) 王様のブランチ(TBS)、NEWSリアルタイム(日本テレビ)ほか。 http://osamuwatanabe.web.fc2.com/